【記録ではなく記憶に残る作品を】映画『ハケンアニメ!』から学ぶ姿勢。

[注意] この記事は映画『ハケンアニメ!』のネタバレを(かなり)含みます。これから観ようとしている方は、ぜひ映画の鑑賞後にこの記事を読んでください。


【アニメ制作の裏側を描く映画】

今年の1月頃にダイコク映像のIllMinoruvskyさんからプッシュされた『ハケンアニメ!』を、今更ながらNetflixで観た。2022年春公開の映画だ。

 

『ハケンアニメ!』あらすじ

1クールの間で最も高い視聴率を記録して、その後も高い評価を得る、すなわち“覇権”をとるアニメを目指して奮闘するアニメの制作会社。吉岡里帆演じる新人監督、齋藤 瞳「見るひとに魔法がかけられるようなアニメが作りたい!」とアニメの世界に飛び込んだ。そんな彼女が初めて監督を務める作品の裏(同じ時間帯の別のチャンネル)のアニメを手がけるのが「天才監督」と世間からもてはやされる王子 千晴(中村 倫也)。両者はそれぞれに苦悩を抱えながら、彼らをとりまく制作クルーとともにハケンを争う。


【今すぐ伝わらなくてもいい。誰かの胸に刺さればいい。】

ハケンを獲得すれば、会社の経営も上向くうえに、監督としての評価も強固なものになる。

瞳が作るアニメ『サウンドバック』は序盤こそ結果が出ず、辛辣な口コミも多かったが、製作陣との地道なコミュニケーションが功を奏し、回を重ねるごとに視聴率はUP。徐々に王子が手がける『運命戦線リデルライト』に食らいつく。

そして最も重要な最終回が近づく。ラストの出来次第で、その後のグッズやDVDの売り上げすら左右されるという。最終回の制作を終え「あとは放送を待つだけ!」というタイミングで、瞳は自らが生み出したアニメの結末に疑問を抱く。ハケンにこだわるあまり、自分が本当に描きたいエンディングから離れているのではないかと。

「今すぐは伝わらないかもしれません。いつか思い出してもらえればいい。誰かの胸に刺さればいい。」

そう言ってエンディングを作り変えることを製作クルーに伝える瞳。つまり目の前の成功を捨ててでも自分が納得するアニメを選んだのだ(その姿勢にクルー全員が賛同して、1から作り直すあたりは若干のフィクション感が否めないわけだが…)。


【ダンスにも通じる!記録ではなく記憶に残るものを】

僕が感じた一抹の「んなわけ!!」はさておき、主人公は最終的にハケン≒ビジネス的な成功を目指すのではなく、アニメ作りを志した時のピュアな気持ちに立ち返ったわけだ。

こういった「ビジネスか。ピュアな気持ちか」という価値観の違いは、ストリートダンスの世界でもたびたび出くわす。

憧れのHIPHOPチームの爆発的なショー、ヒリつくようなB-BOYバトルの駆け引き、そして憂いを帯びた妖艶なJAZZの作品。僕はそういった圧倒的な表現に惹かれてこの世界に足を踏み入れたし、生きている間にできるだけそういった表現に出会いたいという欲がある。

しかし、ダンスをなりわいにしている人間にとって、お金が生まれなければ続けていくことはできない。それにコロナ禍の影響もあり、これまでのやり方でイベントを打つことが厳しくなった。そうなると当然違った形で収益を生む方法を考えないといけない。

ここまでは自然なことだろう。

ただ、なかには効率良く利益を生むことを優先する一方で、ダンス本来の魅力や可能性を無視したイベントも増えているように思う。そんなマネーファーストな価値観は、ダンスの圧倒的なエネルギーに魅せられた僕のような世代にとっては、理解に苦しむ時もある。

聞くところによると、最近では、イベントの運営スタッフが顔も知らないダンサーに対し、DMで「ナンバー出しませんか?」と誘うことが激増していると聞く。そこに作品のクオリティや、振付師のキャリアは関係ない。人さえ集まればそれで良いのだ。ひどい時は断りのメッセージを送ると、既読スルーになるケースもあるらしい。そうやってダンサーを、アーティストとしてではなく数字としてしか認識できない(それもおそらくは悪意なく…)イベントが、実際に増えているのだ。

【琴線に触れるダンスを共有したい】

もう一度書くが、ダンスでビジネスをすることが悪いわけではない。その恩恵で(ダンススタジオを含め)シーンが広がってきたことは明らかだ。でもイベントの運営が大切にすべきは、一部の人間だけが潤う仕組みではなく、琴線に触れる表現をできるだけ多くの人に共有したいという熱意ではないだろうか?

ナンバー依頼のDMを手当たり次第送っている人も、テキストをコピペする指をいったん休めて『ハケンアニメ!』を観てほしい。


最後に一点だけ断りを入れて終わる。

今回は『ハケンアニメ!』主人公の「誰かの胸に刺さる作品を」生み出そうとする姿勢を紹介したわけだが、主人公とハケンを争っていた王子監督が”ビジネスビジネス”していたというわけでは断じてない。彼は彼でとことん納得のいくアニメを作ることに魂をささげる(この辺りはこの記事の冒頭のCMを観てもらってもわかる)。前半のアニメの話と後半のダンスイベントの話を二項対立で対応するように書いてしまったので、あたかも王子監督が金に汚い人間だというような誤解を生むかもしれないと思ったのでフォローを入れておく。


【こっちも観てほしい!】

「アニメ制作」についての作品でいうと『映像研には手を出すな!』もとても良い。過去にレビューを書いたので、興味のある方はこちらも読んでみてほしい。

「チーム戦」のかっこよさをビンビン感じるアニメ。遅まきながら「映像研」にハマった話。

Seiji Horiguchi

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