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【2人で1時間を魅せる壮大な挑戦】舞台REIKO×MIKIHO -our- を観て。

先日、FRESHのインストラクターでもあるREIKOさんと、JAZZダンスチーム「via」に所属するMIKIHOさんによる舞台公演「our」を拝見してきた。

僕は普段、HIPHOP界隈のパーティやダンスイベントに行くことが多いのだが、JAZZの繊細さやエモーショナルな表現が凝縮されたショーや舞台も好きだ。REIKOさんが2018年にプロデュースされた舞台「eN」も見に行ったが、その頃とは規模やコンセプトもガラッと異なる今回の舞台。情報が出た時からとても楽しみにしていた。

もともとはレポを書くつもりはなく、シンプルに「JAZZダンサーによる本気の舞台を見たい!」と思っていただけだったのだけど、公演を拝見した後の興奮冷めやらぬ僕にとって、アンケート用紙の「公演の感想」の欄にコメントを走り書きするには、とてもじゃないがスペースと時間が足りなかった。それだけ感じることが多い公演だったのだ。そこでFRESHのブログを借りて書くことにした。

この記事を読む皆さんには、これから読むのはあくまで1オーディエンスの個人的な感想だということと、(繰り返しになるが)普段HIPHOPの界隈にいるJAZZど素人の男が書いたコメントだということを念頭に置いてほしい。


「our」の会場は、[あべのハルカス]から徒歩10分ほどの場所にある[一心寺シアター倶楽]。6/3(土)、6/4(日)の2日にわたり開催された。なんと2日で5公演という怒涛のスケジュール。これを2人のダンサーだけで完走するのだから、いかに過酷なプロジェクトだったかがうかがえる。ちなみに僕は2日目の1発目の回を拝見しに行った。5公演あるうちの3回目なので、ちょうど折り返しということになる。

少しだけ迷子になりながらも会場に到着。客席には公園のパンフレットと協賛スタジオのチラシ、そして先のアンケート用紙が。僕が席に着いてからほどなくして、ダンスチーム「CANDY NEON」としてREIKOさんと多くのイベントで踊られてきたYUKIEさん、AKKYさんがいらした(少し脱線するが、今年7年ぶりにCANDY NEONがショーをするというニュースは僕を歓喜させた)。まだ薄暗いステージを眺め、これから繰り広げられる公演について考えを巡らせながらその時を待つ。

パンフレットに書かれてあった演目はこちら。ソロ曲も含め、全部で13曲を2人で踊りきる。

戦え
距離
黒いバラード(MIKIHOソロ)
クロスオーバー
孤高(REIKOソロ)
チリニナル
-Interval-
ニコチン(振付MIKIHO for REIKO)
雨傘
ジュエリー(振付REIKO for MIKIHO)
鼓動
SHOW
our
エンディング

結論からいうと、圧巻の時間だった。見ている方も気づかぬうちにエネルギーを吸い取られるような緊張感。曲の展開に合わせて計算された構成。「ここはこういう意味が込められている…?」と考察したくなる場面。逆にそんな理屈っぽい見方など吹き飛ばされるような圧倒的な感情の出し入れ。そして終盤にようやく解かれる緊張と笑顔のエンディング(ここだけ撮影OKだったのでSNSで見かけた方も多いと思う)。詳しい内容を書くとネタバレになるので、そうならない程度に僕にとっての感動ポイントを書くことにする。大きく分けて3つだ。

 

1, 個々の力が際立つシンプルなステージ構成。

まず、大道具や衣装などを用いた複雑な演出を用いず、(イスや傘といった小道具は登場したものの)基本的にはステージ上にはほとんど何もない状態で2人が踊る時間が続いたのが印象的だった。ムービングやストロボといった動的な照明の演出もなく、パーライトとステージサイドスポットのみ。まるで可能な限りの“飾り”を削ぎ落とすことに挑戦しているようだった。

そうなると僕ら観客の視線は、当然REIKOさんとMIKIHOさんに集中する。つまり60分の公演が成立するかどうかは、2人のパフォーマンス次第になると言っていいだろう。しかし、それをただ“成立”させるどころか、舞台は、彼女たちの身体から発せられる言葉で埋め尽くされ、終始圧巻の60分となった。ソロ、コンビネーション、さらには些細な仕草や立ち姿だけで見せきるという、ストイックさとパフォーマンス力の高さを垣間見た。

2, 互いの理解が象徴される「ソロの振付」

最も興味深かったのが、お互いのソロの振付をしあうという試みだ。つまり、REIKOさんのソロをMIKIHOさんが振り付けて、逆にMIKIHOさんのソロの振付をREIKOさんが手掛ける。ショーケースやナンバー作品はともかく「人の振付でソロを踊る」というショーを、僕は見たことがない。一体どんな化学変化が起きるのか、個人的にも楽しみにしていたポイントだ。2人は、本番の数日前に行ったインスタライブで、お互いのソロパートについてこう語っている。

MIKIHO : REIKOさんのファンが見たいであろう景色を意識しました。みんな心臓を撃ち抜かれると思いますよ!(笑) 曲も、もともとは自分が使おうと思ってたけど、今回お互いに振りをつけるってなった時に『REIKOさんに振りを作るならこれしかない!』ってなって。それからわたしは、REIKOさんがステージに立った時の“重さ”が好きなんです。普通ならソワソワしてしまいそうになるちょっとした間でも、REIKOさんならドンと立ってくれる。そういう間も意識しました。

REIKO : (MIKIHOが付けてくれた振付は)“まんま”な世界観だから、普段自分ではやらないけど、MIKIHOが振りをつけてくれたからこそできるのはあるね。 MIKIHOのソロも『こう踊ってくれるだろうな』っていうイメージでつけました。MIKIHOは、正統派の動きをドロドロにする才能があって。湿度高めでね(笑) だから思う存分、染み込んでくれそうな曲を選びました。振付はそこまでひねってないけど、MIKIHO独特の間と見せ方で良いものにしてくれる。それが伝わったらいいなと思います。

個人的に感じたのは、このソロの部分、相手が考えた振りにも関わらず不思議と2人それぞれの体の隅々まで染み込んでいるように見えたことだ。「相手に振りを考えてもらったパート」と言われないと分からないほどだ。誤解を恐れずにいえば、他のシーンでのソロとは違った質感の説得力を持っていたようにすら思う。それくらい、相手の人柄やダンススタイルへの理解の深さが象徴されていた。

3, 長尺のパフォーマンスでこそ到達できる境地。

普段HIPHOPの界隈にいる自分にとって(そしてまた同時に多くの人にとって)、“60分間JAZZだけのショーを見る機会”はほとんどない。

(ちなみに彼女たちのダンスは、HOUSEやHIPHOPなど他ジャンルの影響も多分に受けていることがわかるので、もはや「JAZZのショー」とカテゴライズすべきでないかもしれないが、便宜上JAZZという言葉を使わせていただく)

だから、普段自分が行くようなイベントで見るJAZZのショーとは一味も二味も違った種類の感動があった。時間をかけるからこそ可能になる展開。時間をかけるからこそ削られていく体力。その境地でしか到達できない感情表現(再三書いているが、忘れてはいけないのは、2人だけで60分×5回の本番を走りきったということだ)。この「長尺のパフォーマンス」を行うことについて、再び彼女たちのインスタライブの言葉を引用しよう。

REIKO : 生徒さんにとっては「先生の本気」をガッツリ見る経験は大切かなと思います。普段のレッスンでさえも1分以上踊ることって少ないから。コンテストでも3分だし、クラブのショーなんかも長くて6分くらい。今回、1時間よ!?(笑) やる側もだけど、見る側にとっても何か得るものがあると思います。

MIKIHO : 1時間踊り続けた人がどうなるのか、見て欲しいですね(笑)

そういえば、チケット予約フォームには「各公演40名限定」とあった。[一心寺シアター倶楽]の本来のキャパよりも、あえてコンパクトな規模で開催されたわけだが、それゆえに彼女たちの息遣いや、細かい表情、体重の預け合い、波動の強弱までが感じられたことも“60分見続ける側”にとっての貴重な体験だったと思う。

 

少しの挨拶の後のエンディング。それまで張り詰めていた緊張を解いてリラックスした様子で踊る2人。オーディエンスも、それまで我慢していた声援や拍手を惜しみなく送っていた。


公演後、インスタのストーリーには公演を見に行った人たちの感想やコメントが続々とアップされた。(その多さは、公式インスタアカウントのハイライトを見てもらえば分かる)

もちろん、個々のアカウントもメンションされた訳だが、REIKOさんMIKIHOさんはそんな気持ちに応えるように個人アカウントでストーリーをリポストしてコメントを返していた。

そんな彼女たちのコメントのなかで、「60分という長さを見てもらう」ことや「生で届ける」といったキーワードが繰り返し語られた。時代は「時短」「ライフハック」など、何かと効率化が優先されるようになりつつある。そしてダンスを含むエンタメやアート表現は、SNSを通して数秒単位で切り取られ、インスタントに消費されるようになった。今までは考えられなかった拡散力で、広範囲にリーチできるようになった恩恵もあるかもしれないが、その代わりに、それらのダンス動画が持つエネルギーは、広がる数に反比例して減少してしまっているとも思う。(翌日には忘れ去られてしまうような情報に、何を心を動かされることがあるだろう?)

REIKOさんMIKIHOさんと、2人を取り巻く技術スタッフが60分の舞台を作り上げることは、きっと想像以上に過酷で、膨大なエネルギーを要する活動だったに違いない。しかし、人の心に残り、長い年月をかけて蓄積していくものは、それだけ過酷なプロセスを経た表現であるはずだ。公演に携わられたスタッフの皆さんと、REIKOさんMIKIHOさんへのリスペクトを込めて、JAZZど素人による公演の感想記事を閉じる。


おまけ

公演終了後、ロビーに出てこられたREIKOさんと、YUKIEさんAKKYさんによるたわいないほっこりトークに癒されたのは言うまでもない。今年の夏に7年ぶりにカムバするCANDY NEONのショーもぜひチェックしてほしい!

Seiji Horiguchi