【コラム】「ダンスの質量」について考える。

いきなりだが、あなたは頭の回転が早い方だろうか?それとも遅い方だろうか?

例えば目の前の相手が言ったことに対して理解を示し、加えて自分なりの意見を伝えるという一般的な会話を見ても、スピード感にはかなり個人差がある。

インタビュアーとして活動していて思うのだが、僕はおそらく頭の回転が早い部類に入ると思う。というか、ある程度の速さを維持しないとインタビュアーは務まらないとさえ思う。相手の言ったことの真意を考えながら、用意してきた質問事項を頭の中で整理する。話を引き出しやすいように会話のテンポも意識しつつ、全体の時間も気にする。そうやって同時進行でいろんなことを考えながらインタビューを進める。このおかげで、少なくとも会話をするうえでの頭の回転速度はかなり鍛えられた感覚がある。

しかしながら頭の回転は早ければ早い方がいいというわけでもなさそう」というのが今回のテーマだ。

◉頭の回転。早い方がいい?遅い方がいい?

「頭の回転が早すぎる人が陥ること」について、岡田としおさんのチャンネルで興味深い話をされているのを見つけた。

自動車の性能に例えているあたり(2:30~)が最も分かりやすいのでぜひ聞いて欲しいのだが、めちゃくちゃ端的にまとめると、頭の回転が早い人は重さが足りない(=考えが浅い)という事態に陥る可能性があるという。

つまり、なんでもかんでも「はいはいなるほど!こういう場合はこうやんな!」とクイックに結論を出すことが、必ずしも良いとは限らないと言える。

◉思考、止まってない?”ライフハック”の危険性。

ここ数年はSNSで「時短」「ライフハック」といった言葉をよく聞く。例えば「名店の味を数分で実現させる時短レシピ」「普通の腹筋の◯倍効く!時短筋トレ」「風呂場の掃除がラクになるライフハック」などなど。それらの動画は素人にもある程度の知識を与え、最短距離でゴールに導いてくれる。数十秒で心を掴んでフォロワーを獲得する目的を持つTikTok、Instagramとの相性も良い。

またダンスに関しても例外ではない。最近なら韓国のダンサーがアップしてたちまちバズった空中ウォーク(正式名称はSLICKBACK?)にあやかって「プロが教える空中ウォークのやり方」の動画が大量に上がっている。

もちろん空中ウォークなどの「自分も真似したい」といった程度の動きなら良いかもしれないが、これがストリートダンスの本格的な動きの解説や、もっと踏み込んで「ダンスバトルで勝つためにやるべきこと◯選」といった具体的なアドバイスになるとどうだろう?

数十秒の動画の中で与えられた解説やアドバイスは、時短レシピや筋トレと同じく、やはり最短距離でゴールに向かわせる力があるため「なぜこの動き(あるいは意識)が正しいのか」もっと言えば「なぜこの動き(意識)以外はいけない(=間違っている)のか」について考える道のりをショートカットしてしまう。つまり自分で試行錯誤する行為が減る可能性がある。

もちろん趣味としてダンスを楽しみたい人は、好きなレクチャー動画、アドバイス動画を見て参考にしてもらえればけっこうだ。しかし、もしあなたが少しでも人に感動を与えるダンサーになりたいダンスの本質を磨きたいと考えているのなら「こういう時はこうすべし」「これをすればこの動きをマスターできる」というような極端なショートカットを目的としたドバイスからは一定の距離をとる必要があるのではないだろうか。

◉「試行錯誤の鬼」こと日本の先駆者たち。

ここで、時代をさかのぼって日本のダンスシーンのパイオニアたちに目を向けてみよう。彼らは気が遠くなるほどの時間をかけて海外のダンサーがクラブで踊っている映像やMVを何百回も繰り返し見て動きを分析し、研究に研究を重ねて踊りのスタイルを確立してきた(もちろん現地に足を運んだ方も多いと聞く)。

SNSもYoutubeもない時代。彼らは鋭い洞察力と長い時間、そしてピュアな好奇心をもって限られた映像資料から自分たちのスタイルを生み出し、その踊りは重さ(=説得力、哲学、美学、こだわり)を持ち、見る者を魅了した。

それに対して、現在のSNSの解説を見てクイックに習得した技術や意識は、自分のものにできていない分”重さ”に欠けるのではないだろうか。誰かに用意されたショートカットは、時に本質から乖離する危険性をはらんでいる。

◉ダンスレッスンもいわば”ショートカット”?

とはいえ、なんでもかんでもヒントを得ずに自力で考えればいいという話でもないのは明らかだ。人間の最大の武器は「過去から学ぶ」こと。私たちはダンスに限らず、あらゆる分野で先人の知恵や習慣、失敗を参考にしながら文化を発展させてきた。

ダンスレッスンも、先生が時間をかけて習得したスキルを数十分の間で教わるという意味ではショートカットだ。自分1人ではたどり着くのに時間がかかっていたことを、言葉を聞いたり先生の踊りを間近で見たりして学ぶ。ここも先のSNSと同様「レッスンでやったからこの動きはマスターした!」と捉えてしまえばそれまでだ。進化はない。

レッスンを受ける側に求められるのは、教わったことから試行錯誤して自分のものにする時間ではないだろうか。そしてその試行錯誤する余地を与えてくれるレッスンこそが良いレッスンと言えるのではないだろうか。

◉「あーでもないこーでもない」をやろう。

自分はFRESHのoSaamさんのレッスン(毎週火曜21:30-23:00)に10年ほど通っているが、いまだに難しすぎてその日教わったことの半分もできずに凹んで帰る。一緒に受けている人も同じ様子だ。休憩時間は他の生徒さんと一緒に「さっきoSaamさんがやってた動きってどういうこと…?」と頭を捻りながら復習する。

先生に習ったことを、あーでもないこーでもないと考え、言葉を、動きを咀嚼して自分の体に馴染ませる。自分の身体語彙に加える。ついには応用させて新しい動きをクリエイトしていく。その営みこそが良いダンサーへの道だと僕は考えている。

最短距離でマスターすることにこだわらず、おおいにスピードを落としてじっくり向き合いながらダンスの重さを獲得していこうではないか。

text : Seiji Horiguchi

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