FRESH DANCE STUDIO、閉店のお知らせ。
まずは突然のお知らせになってしまったことを謝らないといけない。申し訳ない。
突然すぎて「閉店」の二文字がうまく入ってこない方がほとんどかもしれない。冗談か何かだと思った方も多いだろう。実際に「リニューアルオープンの前振りすか?w」と、半ばおどけて、(そして半ば現実逃避的に)連絡してくれた先輩もいるが、残念ながらこの記事を書いている段階ではリニューアルオープンや復活の予定もなく、FRESHは3月30日をもって閉業する。close means close。
このブログも3月いっぱいで閉鎖されるだろう。つまりこれが僕が書く最後の記事だ。長くなりそうだけれど、最後までお付き合いいただきたい。
新生FRESH!! …のはずが。ことの顛末(てんまつ)。
閉店に至った経緯を改めて書いておこう。
ここ数年、現在の店舗(大阪帝国ホテル地下)の老朽化が深刻になってきたため、新天地への移転を計画することになった。14年間慣れ親しんだ今の場所を離れるだけでも十分寂しさを感じるわけだが、運よくアメ村から割とすぐの距離に良い物件が見つかった。そこに拠点を移してグレードアップした“新生FRESH”を構築するという計画が立ち上がり、一時はスタッフも準備に奔走した。
画像はイメージ。
しかし、いよいよ移転のお知らせができるところまでいった折に、複数箇所でさまざまなトラブルに見舞われ、移転の話が白紙になってしまった。かといって今の店舗からの退去(契約は3月いっぱい)も変更がきかないため、完全に「拠点がない」状態になってしまう。
今から借りられる物件を探したり、間借りで使わせてもらえるところを探したり…といった代替案も出たが、今のスタジオの規模を考えるといずれも現実的ではない。そんなわけで苦渋中の苦渋の決断ではあるが、閉店を余儀なくされた。
これがことの顛末。
とはいえここまで書いた経緯は、SNSやHPで発表している内容とさほど変わらない。きっとあなたも既に読んでくれているだろう。なのでここからは、スタジオの内側にいるからこそ見えた景色や、そこから考えたことについて書こうと思う。
※マネージャーである僕個人の主観がかなり入った内容なので、ご承知置きを。
閉店の公表。準備中の謎の動悸。
この記事の冒頭でも見ていただいた「閉店のお知らせ」の画像やSNS用のテキストは僕が作成した(代表挨拶の文章は、もちろんHONGOUさん)。一連の作業をしながら、何か緊張に似たざわつきがゆっくりと近づいてくるのを感じた。原因はよくわからない。
僕らスタッフは「移転できるのか、それとも閉店か…」という瀬戸際を間近で見ていたし、閉店の決断を聞いてからもある程度の日数が経っている。心の整理はついているはずだが、閉店の旨を公表するための作業をしていると、なんとなく動悸が早くなるような感覚を覚えた。
発表は2/3(月)の夜9時。インスタの投稿と公式LINEからのメッセージ配信を同時刻で投下。公式LINE上からの返信はさすがになかったが、インスタの方ではそうはいかない。投稿して速攻でタイムラインは蜂の巣をつついた騒ぎに。世間にとっては、青天の霹靂、寝耳に水。前ぶれのないバッドニュースに驚愕した方々が投稿を自身のストーリーにシェア。それとともに投稿へのイイネ数も爆発的に伸び、ちょっとしたバズ状態になった。
驚き、戸惑い、悲しみ…。フォロワーの感情が物理的なうねりとして画面から伝わってくるようで、改めてことの重大さを感じた。発表準備の際に僕が感じていたざわつきは、この嵐を予感してのことだったのかもしれない。
投稿からおよそ10分後。
FRESHの発表会やパーティに何度も出てくれている高校3年生のダンサー2人組が待合にやってきた。ちょうどFRESHの近くにいたらしい。
「インスタの投稿見たんすけど、あれほんまですか?」と聞く二人。頷く僕。文字通り絶句する二人…。
週2ペースでFRESHのレッスンを受けに来て、土日にはレンタルすることも多い彼らにとって、ダンスが生活の軸であり、そのダンスの活動基盤がFRESH。相当なショックだっただろう。2人のうち、春から大学生になる方は「俺、4月からどうしよ。めっちゃ暇になる…」と呟いた。
直接のリアクションは他にも。月曜のレッスンに通われている京都在住の男性から「息子がFRESHに通うために大阪の大学に行って一人暮らしをするって決めてたんですけど、閉店を知って『大学行くの辞める』って言い出して…。」と打ち明けられた(ちなみにその後、他の方からもFRESHに通うために地方から大阪に引っ越す予定だったけど断念したという話を何度か耳にした)。
それほどまでに人の進路や人生自体に関わりうる場所なのだと考えると、閉店の重大さがより強く感じられたのだった。だからといって結果が覆るわけでもない。なんとか気を強くもって、その日は先生や生徒さんへの説明に努めた。
SNS越しの守護霊の存在。
発表から一夜明けた2/4(火)。
投稿へのイイネは既に1000以上。投稿のシェア数も100近く。シェアされたストーリーを見ていると「青春を過ごしたスタジオが…」「言葉にならない!」「全然信じられないです」「FRESHがないと今の自分はないです!」などなど多数のコメント。
なかには、過去のインストラクターや、これまで通ってくださった生徒さん、歴代スタッフ、さらにレンタルで借りていただいている方々も。
スタジオの内側にいると本当についつい忘れてしまうのだが、こういう状況になると、凄まじい数の方に愛されているスタジオだということを改めて痛感する。まるで普段は知覚できないけど、瀬戸際に現れて主人公を守ってくれる守護霊のようだ。
いや冗談抜きで、実際こういうタイミングで心配してもらったり、元気づけてもらったりしたという意味では、皆さんは守護霊的な位置付けになるのだ。このソーシャルネットワーク的エクスペクト・パトローナムのおかげで、傾きかけていた僕らスタッフのメンタルもずいぶん救われた。
なら、どう生きようか?
未来はどうなるかわからない(『BACK TO THE FUTURE3』より)。
ここからはこれからのことを。今の場所からは出ていかないといけない。次の場所もすぐには準備できない。なら、どう生きようか?
冒頭にも書いたように、現時点ではスタジオ復活の構想はないものの、いろんな方から「なんとか存続できないんですか!?」「こうすればまたやれるんじゃない?」「いつか復活するのを待ってます!」という声をいただく。
確かに、閉店を知って飛び込んできたダンサーや、進路を再検討する学生の存在を知ると、このスタジオがなくなってしまうことによる今後の影響の大きさも計り知れない。何かしらの形で復活を目指すべきかもしれない。
例えば小ぶりな物件で続けたり、間借りスタイルで運営したり、発表会だけ開催したり…。たしかに集まる場所とそれを必要とする人がいれば、どんな形であれダンススタジオは再建できる。
…しかしながらどんなところ(状態)でも良いわけではないのも事実。場所がなくなってしまう寂しさに耐えられず、「とにかく復活を!」と勢いだけで動いた結果、しばらくしてから「おもてたんとちゃう…」となってしまっては元も子もない。なんらかの形でスタジオ復活の目処がたったとき、何を重視すべきかを今から考えておきたい。
FRESHにとっての“竜骨”ってなんだろう。
『ONE PIECE』で、海賊船「ゴーイング・メリー号」の消耗が激しすぎてもう航海できないことがわかった時、船の一番の土台となる「竜骨」が激しく損傷していることが最大の原因だった。「ならその部分を直してくれよ」と頼むルフィに船大工たちは「竜骨を交換するのは、ほとんど船を1から作るようなもの。そっくりそのまま入れ替えたとして、一番違和感を抱くのはお前ら自身じゃないのか?」と返した。
これはスタジオでも同じだ。
スタジオ(もしくはそれに代わる場所やコミュニティ)を再構築するうえで求められるのは、船でいうところの竜骨、つまり「FRESHを構成するうえで一番大切な部分は何だったのか」を考えることではないか。
Q. FRESHをFRESHたらしめている要素とは?
・アメ村ならではのアングラな雰囲気。
・凸凹なスタッフのキャラクター。
・関西でも指折りの本格派なレッスン。
・スピーカーのクオリティ。
・発表会のハイレベルなクラス作品。
・映像や写真、文章に力を入れているメディア的な機能。
・ダンス以外のカルチャーとの密接なつながり。
“FRESHらしさ”を構成する要素はさまざま。それこそ内側にいるスタッフには見えていない特徴もあるだろう。
FRESHになくてはならないものとは?
これまで10年間、生徒として、アルバイトスタッフとして、そして今マネージャーとして、いろんな角度でFRESH DANCE STUDIOと関わってきた僕目線の答えを言ってしまおう。
FRESHのコアにあるのは「日常的な隣人愛」と「土壇場の結束力」。
「日常的な隣人愛」
これまで関わってくださった人なら共感してもらえると思うが、FRESHはとにかく人と人が繋がりやすい場所だ。
先生と生徒はもちろん、先生とスタッフ、生徒さんとスタッフなど、垣根を越えてめちゃくちゃ仲が良い。それはもちろんストリートダンスシーン自体にスタジオ外で交流する時間(主にパーティやダンスイベント)も多いからだが、それがなくてもFRESHには人が自然と親密になる空気が流れている。
レッスン終わりもずっと残って談笑する先生。季節のイベントごとにスタッフにお菓子をくれる生徒さん。言葉が通じなくても臆さず海外ダンサーに接するスタッフ。赤ちゃんを連れてきてくれるかつての先生。
ここには「ただの習い事としての場」以上の交流がある。その根底にあるのはこの場所に集っているという共通点だけでシンパシーを感じて行動できる理屈抜きの隣人愛ではないだろうか。10年前、恐る恐る待合に足を踏み入れた若造に対して、当時の受付スタッフが開口一番「お疲れやまでぇーす!」と迎え入れたからこそ、その若造は安心して通い続けることができ、今はマネージャーとしてこの文章を書いている。
「土壇場の結束力」
2020年のコロナ禍の時を振り返ってみよう。
緊急事態宣言をうけて対面のレッスンができなくなった頃、手探りで挑んだオンラインレッスンはいろんな専門家のアドバイスやインストラクター、スタッフの協力の甲斐あって結果的に日本全国(ひいてはアジア各国からも)受講いただいたし、その数ヶ月後に開催した「Village Camp ONLINE」は、出演者の本気の姿勢が功を奏して、オンライン視聴チケットの販売数が伸びまくった。
そういった土壇場の時に巻き起こる力強さと、それらが起こすミラクルに何度も驚かされた。単なるビジネスの関係なら、ここまでの結束になっていなかったはずだ。
隣人愛と結束。抽象的な概念ではあるが、FRESHがここまで「他にはないスタジオ」と言ってもらえるまでに育ったのは、これらの概念あってだと思っている。逆にいえば、これらをすっ飛ばしてもう一度側を作り込んだとしても、再び崩壊するまでに時間はかからないだろう。
いつの日か復活を果たすとき。スタジオの雰囲気やレベルは二の次、三の次。なんなら物理的な場所ではなく、イベント企画やメディア的な役割を担う媒体になるかもしれない。それこそ未来は分からない。
でもこれほどまでに「閉店」が惜しまれるFRESH DANCE STUDIOにとって重要なメンタリティはなんだったのかは、考える価値があると思う。
図らずも、HIPHOPの重要な理念も「PEACE・LOVE・UNITY・HAVE A FUN」の4要素。つまりはそういうことなのだろう。
text : Seiji Horiguchi