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Manager's Essay vol.2「初めてPROPSに遊びに行った夜」

2022.05.15

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「初めてPROPSに遊びに行った夜」

文/構成 : Seiji Horiguchi

はじめに

誰かにとっては何気ない一夜のイベントでも、別の誰かにとっては人生に大きく影響を与える出来事になりうる。

今、僕はFRESHのマネージャーとしてスタジオの運営に携わっている。またフリーのライターとしても活動していて、ありがたいことにいろんな方から依頼を受けては、インタビューや対談といった記事作成のお手伝いをしている。このエッセイシリーズは、そのマネージャー業とライター業のちょうど中間のような位置付けだろうか。貴重かつ責任のある仕事をさせてもらっている。しかし偉そうに「Manager’s Essay」とキーボードを叩いている僕も、8年前は長野から引っ越してきた何者でもない若造だった。そんな若造が大きく刺激を受けた夜のことを記そう。


vol.1はこちら
「初めてFRESHのレッスンを受けた日」
※今回の話は、時系列的には前回の続きだ。

1, PROPSというパーティがあるらしい。

oSaamさんクラスの雰囲気にも慣れ、他の生徒さんとも打ち解けてきた時「プロップスに遊びにおいでよ」と誘われた。アメ村界隈では、毎日大小様々なパーティが開催されていて、そのなかでも大阪のダンサーにとって鉄板のパーティと言えるのが「PROPS」というパーティらしい。

「FRESHのすぐ近くのクラブでやってて、ヘックスとかシュークリームがショーしたりするパーティやで!いつも最高に楽しい!」と興奮気味に語る先輩たち。どうやらoSaamさんクラスの生徒さんはほとんどみんな行くみたいだ。当時バイトとレッスン以外は特に予定もない生活だったので、もちろん僕も行くことにした。

大阪に引っ越して1ヶ月。当時、飲食店のホールのバイトをしていた僕は、そのバイト終わりにアメ村に向かった。夜24時くらいだっただろうか。もちろん途中で待ち合わせて一緒に行くような友達はいない。心細さを感じながらも、長野の先輩ダンサーから譲り受けたリュックをお守りのように背負ってクラブへ向かう。先輩たちの言葉通り、PROPSの会場は、FRESHから歩いて3分くらいの場所にあったので特に迷うこともなかった。

クラブの近くに着くと、ダンサーっぽい格好の人たちが列をなしているのが見えた。あそこが入り口か。大きな看板には[GrandCafe]とある。立派なエントランスの脇にはイベントのポスターが何枚も貼られていて、明らかに大きい箱だということが分かる。変に緊張してきたけど、ひとまず列に並ぶ。遊園地のアトラクションに乗る前に歩かされる廊下のような通路の突き当たりに、キャッシャーがあった。ホテルのフロントみたいだ。

スタッフ「身分証をお願いします」
僕「あ、はい」
スタッフ「ゲストはありますか?」
(あ。ゲストとか聞いてなかったな…)
僕「えと、シュークリームグッドマン?」
スタッフ「はい。1D付きで2000円です」
僕「(いけた...) はい」
スタッフ「ごゆっくりどうぞー」

自分が学生時代遊んでいた松本市のクラブは、入り口の脇にパイプ椅子と小さい机があって、何人かのイベントスタッフ(とか出演者)で順番にキャッシャーを回していた。もちろんIDチェックなど無い。だからこのキャッシャーでのやりとりは新鮮で、緊張が増した。そのまま地下に続くコンクリートの階段を降りると…
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壁に貼った模造紙のようなバカでかい紙に、スプレーでグラフィティを描いている人がいる。何度も同じ部分にスプレーで塗り足しているのか、スプレーの塗料は床にも垂れている。「ライブペイント」という現場ならではの表現らしいが、そんなアートを見たこともない僕はクラブの中に入る前から早速あっけにとられた。

2, 大きいクラブで大きい音を聴くということ。

地下のドアを開けた瞬間…爆音に包まれた。縦ノリのHIPHOPビートが腹に響く。ドアを開けてすぐの空間にはステージやDJブースはなく、部屋の中央にアイランド型の巨大なバーカウンターが広がっている。カウンターはコの字状になっていて、三方向から注文を聞けるようになっているけど、既にかなりの人でごったがえしている。壁沿いにテーブルとソファーが並んでいて、壁一面にHIPHOPのPVが投影されている。とにかく音圧、映像、そして人の多さという情報量に圧倒された。
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少し脱線するが、僕は体質的にお酒が飲めない。パーティでは、基本的にソフトドリンクを飲む。その当時も「とにかくビールだ!」という気持ちには当然ならなかったし、バーカンはかなり並ばないとドリンクは買えないくらい人が多かったので、ひとまず飲み物は後にして、奥のメインフロアへと進んだ。

さっきのバーカンフロアも広かったけど、こっちはさらに広い!床には木製のタイルが敷かれていて、ところどころに高めのテーブルと椅子が配置されている。小ぶりなライブハウスくらいなら、すっぽり飲み込めそうな大きさだ。フロアはかなり暗くて、天井でゆっくり回転するミラーボールが反射する光がフロアを照らしている。ステージ上でプレイしているDJは、頭上からのスポットライトでぼんやり照らされている。
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どうやらフロア後方の壁に埋め込むように設置されているスピーカーが、爆音の理由みたいだ。目の前に立つと、体全体で振動を感じることができる。でも不思議と耳は痛くなく、低音が内臓に響いている感じがする。これも初めての感覚だ。フロアを見渡すと、ガンガン踊っている人もいれば、穏やかに揺れている人もいる。そういえばそれまで大きいクラブで大きい音を聴く経験をしたことがなかったかもしれない。ダンスバトルで大きい会場には行ったことはあるものの、PROPSにはバトルとは違うムードがあったし、そもそも[GrandCafe]はそれまで行ったどのクラブよりも音が良かった。

さっきよりも人が増えているバーカンのフロアに戻ると、偶然oSaamさんが通りかかった。僕を見つけると「おーせいじおはよー!リュック、ロッカーに置いてき!」と、ここでも優しく声をかけてくれた。「はい!」と返事をしたものの、「ロッカー代がもったいなくて預けに行けません」とは言えない…。確かに周りにはリュックを背負って遊びに来ている人などいない。人混みの中で、僕のリュックはかなり邪魔だ(それくらい人が多かったのだ)。

3, 若造、クラブスタッフになる。

その後のことは…実をいうと細かく覚えていない。それどころか何時頃までパーティにいたのかも今となっては思い出せない(繰り返すが、お酒を飲んでいなかったので酔い潰れたわけではない)。当時は一緒に踊り合ったり話したりする友達もいなかったし、もしかしたら手持ち無沙汰になって早めに帰宅したのかもしれない。インスタを遡りまくって、この日のPROPSのフライヤーを調べてみると、ショーケースの枠に「HEX BEX+sucreamgoodman」とあるのに、不思議なことにそのショーを見た記憶もない。初めて行ったパーティで、彼らが踊っていれば確実に脳裏に焼き付いているはずなのに…。
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このあと僕はこのPROPSの会場であるクラブ、[GrandCafe]で働くことを決めた。あの広い空間で、同じ音楽の趣味の人が何百人と集まって思い思いに楽しんでいる景色に衝撃を受け「ここで働きたい」と思い立ったのだ。また、人や情報が集まる場所に身を置くことで自分のダンサーとしての活動にも良い影響を与えるんじゃないかと考えたのも大きな理由の一つだ。

幸いなことに当時のクラブはどこも人手不足だったので、面接を受けてすんなりスタッフになれた。ただ当時の僕は、[GrandCafe]ではPROPSのようなアングラなHIPHOPのパーティが頻繁に開催されるものだと勝手に期待していたのだけれど、蓋を開けるとREGGAE、HOUSE、現行のHIPHOP、TECHNO、EDMなどなど、実に幅広いジャンルのベントが開かれていて、はじめの方は「おもてたんとちゃう…!」と肩を落とした。でも、そのおかげで貴重な出逢いや経験に恵まれたし、アメ村には様々なシーンがクロスオーバーしていることも知った。

残念ながら[GrandCafe]は2016年5月をもって閉店したけど、PROPSはその後も[Club JOULE]、[SOCORE FACTORY]など、開催地を変えながら現在も続いている。8年前を振り返りながらしみじみ思うのは、こうやってダンススタジオのマネージャーとして働いているのも、PROPSをきっかけとしてクラブの世界に飛び込んだ延長なのだろう、ということだ。

誰かにとっては何気ない一夜のイベントでも、別の誰かにとっては人生に大きく影響を与える出来事になりうる。
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Text : Seiji Horiguchi
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