アメ村放送倶楽部 vol.6"ダイコク映像"
ゲスト :
ダイコク映像ホストMC :
Seiji Horiguchi※2020年7月3日(金)のインタビュー
Seiji :
皆さんこんばんは。アメ村放送倶楽部のお時間です。本日で第六回目の放送です。普段はiPhoneを使ってインスタライブを行なっているんですが、今回は特別にカメラが数台設置されていて独特な緊張感があります。この形が実現できたのも、今日のゲストの力です。今日のゲストはダイコク映像のillminoruvsky(イルミノルフスキー) a.k.a キダさんです!キダ(に扮したパンダの人形) : どうもー。フリーランスで映像の仕事をやらせてもらってます、キダです。
Seiji : お願いします!キダさんはこの会場内にはいらっしゃるんですが「顔出しNG」ということで、代わりに僕の目の前にはパンダちゃんが座ってくれています。めっちゃシュールですね(笑)
キダ : NGなんです。ごめんなさい(笑)
Seiji : やはりそれは裏方の世界のクリエイターとして、顔を世間に見せずに活動していきたい、という考えがあってのことですか?
キダ : いや…単に恥ずかしいだけです(笑)
Seiji : そうでしたか(笑) というわけで、最後まで宜しくお願いします。ダイコク映像は、FRESHプレゼンツのイベントをはじめとした関西各地のイベントの映像撮影/編集に携わっている他、MVの制作も手がけていらっしゃいます。これを読んでいる方が普段何気なく見ているYoutubeのショー映像やMVも、実はダイコク映像プレゼンツだった、という事もあると思います。
HEX BEX + sucreamgoodman - "PROPS" dance showcase(2017)
Seiji : ただ、キダさん個人について言えば、意外と「知る人ぞ知る」感が強いんじゃないかなと。顔出しもNGですしね!そこで今日はキダさんにあれこれ聞いていきたいと思っています。
1, アニメ、映画、ドラマ。映像作品の楽しみ方
—監督と撮影監督で「この組み合わせだったら間違いないな」っていう見方をする—
Seiji : 前半ではキダさん一押しの映像作品や、ダイコク映像の作品についてのお話を聞きたいと思います。まず幼少期に見ていた映画やアニメって今でも覚えていますか?
キダ : 毎週土曜にルパン三世とか、じゃりン子チエを観てましたね。
Seiji : なるほど。でもそれはもちろん映像的な面白さとかではなく、ですよね?
キダ : 純粋に面白かったですね。じゃリン子チエに関しては大人になってから見た方が染みますね。ホルモン屋の女の子とお父さんの話なんですけど、そのお父さんがなかなかヤンチャな人でね…まあ気になる方は一回見てみてください。
【公式】じゃりン子チエ 第1話「決めたれ!チエちゃん」(1981)
Seiji : パンチの強いアニメに惹かれていたんですね。10代の頃なんかはどうでしたか?映画とか結構観ましたか?今でも印象に残っている映画はありますか?
キダ : 『The Dead Zone』ていう映画は覚えてます。
The Dead Zone - Original Trailer (1983)
キダ : 交通事故で5年近く植物人間だった主人公がいて、急に目覚めるんです。そしたら相手の過去や未来を読めるという特殊能力を獲得していて。結構悲しいです。Neflixで観れるはずなので、観てみてください。スティーブンキングの小説が原作ですね。
Seiji : うんうん。キダさんはプライベートでご飯に行く時もNetflixなどのストリーミングサービスで観られる作品から、今映画館で上映中の新作まで、いろんな映画についての情報を教えてくださいます。ちなみに「最近はこれが面白かった」という作品はありましたか?
キダ : 最近でいうと『スキン』っていう映画がありますね。今度、長編の映画になるんですけど、その前の20分くらいの短編映画があって。それは良かったですね。
SKIN - Official Trailer (2019)
Seiji : 「これ面白い!」と思う作品はダイコク映像の作品にも影響を及ぼしますか?
キダ : その時々で気になったり、良いと思った手法は自分の映像にも取り入れる方ですね。とりあえずやってみるというか。
Seiji : なるほど。ダイコク映像は、City AttackのDVDのオープニングムービーも毎年手がけていただいていますが、あれも確かにその年のキダさんのやりたい事が現れているというイメージです。雰囲気もガラッと変わりますよね。派手な電飾を使う時もあれば、シンプルな構成の時もあったり。
CITY ATTACK 柒 OP(2016)
City Attack 玖 OP (2018)
キダ : その時にやってみたいなって思う映像を自由に作らせてもらってますね。
Seiji : City Attackのオープニングムービーで制作が大変だった思い出はありますか?
キダ : コマ撮りの映像を作った時は、めちゃ時間かかりましたね。
City Attack 肆 OP(2013)
City Attack 伍 (2014)
Seiji : これ!絶対大変ですよね。2013年の方はFRESHの看板が、アメ村、リバープレイス、御堂筋、千日前…という風に道路を移動して最終的に会場である味園ユニバースに到着する、という流れですね。2014年ではそれが鮮やかな電飾になっています。ストップモーションでこの尺の映像を作るのはかなり時間とエネルギーがかかりそう!
キダ : 大変でした(笑) おもちゃ好きというか「これを使ったら面白くなるんじゃないかな」って思って機材を手に入れて色々実験してみるっていうのが好きなんですよね。この電飾はコスパが悪くてこの時以降、全然使ってないですけどね(笑)
Seiji : それからダイコク映像と言えば日本語ラップのMVも手がけられています。特にBudamunkさんの『Five Elements』は音源/映像ともに超クラシックです。
BudaMunk - Five Elements feat. MONJU & OYG(2015)
Seiji : 今は移転していますが、南海難波の高架下のクラブNight Waxにメンバーが集結して首を振っている光景は、壮観です。
キダ : でもあれ後で怒られたんです。店の前でやってて「営業の邪魔や!」って(笑)
Seiji : そうでしたか(笑) 確かにサクッと撮って終われるわけではないですもんね。まさに映画のワンシーンのような。モノクロになったりロケーションが変わったりとかなり凝った映像になっています。そういった映像の雰囲気やカットなどもキダさんのアイデアで決まっていくんでしょうか?
キダ : あれに関してはBudamunk君が色々注文してくれましたね。「もう少し映像を潰してほしい」とか「RAWな感じを出して欲しい」とか。
Seiji : なるほど。Budamunkさん本人が作品を通して表現したい世界観もありますよね。そもそもMVの制作というのはどういう流れで話がくるんですか?
キダ : この『FIVE ELEMENTS』でいうと、sucreamgoodmanから話が来ましたね。oSaamとBudamunk君が繋がっているから、大阪で撮るってなった時に自分に声をかけてもらいました。
Seiji : なるほど!それからMVでいうと、2019年の12月にリリースされた茂千代さんのアルバム『新御堂筋夜想曲』から『残影』という曲のMVもYoutubeにアップされましたが、こちらもダイコク映像プロデュースです。これも必見の映像です。
茂千代 - 残影(2019)
Seiji : 作りとしてはかなりシンプルですよね。夜の道を茂千代さんが歩いているシーンや、CHIRO a.k.a SOULDIGGERさんがスポットライトの下で歌っているシーンなど。でも全体的になんというか凄みがある。こちらは茂千代さんから制作の依頼があったんですか?
キダ : はじめは茂千代君のアルバムがほぼほぼできてる段階の時にMVを頼まれたんですよ。デモを聴かせてもらった時に『残影』一択しかなかったですね。イメージがすぐ湧いたというか。
Seiji : キダさんからの逆指名で、あの映像が生まれたんですね!ラストで淀川のほとりで茂千代さんが仰向けになって空に手を伸ばしているシーンも、冒頭の伏線回収なのだとうかがいました。アーティストの姿を映すだけでなく、ストーリー性や何かしらの意図を込めていたりするのが特徴的ですね。
キダ : 基本的にそうやってさりげなく意味を込めたり伏線を回収したりっていうのが好きなんです。スラムダンクの作者の井上雄彦がかなり昔に、天保山のサントリーミュージアムで「最後のマンガ展」ていうのを開催したんですけど、あれがずっと頭に残ってて。
キダ : 廊下や階段に漫画が飾ってあって、観覧する人はその順路を通っていくんですけど、ずっと道が細くて窮屈なんですよ。で、最後の最後で、かなりでっかいスペースを砂浜にして小次郎と武蔵が立っているところを描いて。それで終わりなんですよ。一番いいところで視界がひらけるというか。
Seiji : それでいうと『残影』のラストの展開にも仕掛けを感じます。序盤から一貫してずっと暗いトーンが続くけど、ラストで朝日が登って視界が開けるような印象を受けます。
キダ : 残影は意図的に作りこみましたね。他にも色々仕掛けがあります。
Seiji : ちなみに普段はどういう風に映画をディグるというか、チェックしたりするんですか?
キダ : 映画は出てる人よりも、監督をめっちゃ気にしてて。監督と撮影監督。そこもやはり相性があって。「この組み合わせだったら間違いないな」っていう見方をします。作品の良さが確実になるというか。
Seiji : そういった感覚はHIPHOPというか、音楽業界でも一緒ですよね。「このプロデューサーとこのラッパーが組んだら間違いないな」ってなるように。
キダ : 近いと思います。なんだったら「どこのスタジオで撮影しているか」とかも大事ですね。録音、ミキシング、マスタリングの機材も重要だと思うので。人それぞれの好みというか、感覚的な部分になりますけどね。例えばNYに拠点がある映画会社のA24っていうところは近年の重要作をかなり出していますね。告知の段階で面白くなさそうでも見てしまいます。
Seiji : 最近キダさんとお話していて「SF映画で一番良い作品はなんですか」と質問した時のキダさんの回答が「Back To The Future」だったのには驚きでした。
Back To The Future - Trailer (1985)
キダ : いや違うんですよ!「SFでおすすめない?」って聞かれた時に「んーじゃあBack To The Futureじゃない?」って答えたんですよ(笑)
Seiji : でも、すごいですよね。僕は個人的に"誰が何いうか問題"って呼んでるんですが、例えば僕みたいな素人の若造が「Back To The Future最高!」って言うのと、キダさんのように映像に携わっている人が「結局Back To The Future」と推すのとでは、全く聞こえ方が変わりますよね(笑)
キダ : 映像うんぬんっていうより、ストーリーがわかりやすくて楽しいじゃないですか。ドクの顔芸とかも面白いし。
Seiji : 少し脱線しますが、最近観た映画で、Neflix限定の『See You Yesterday』というSpike Lee監督の映画に、Maichael J Foxが教師役で出演していて、タイムトラベルをしようとする子どもに「そんなのできるわけないさ」と説いているシーンがあって、ニヤッとさせられました。
See You Yesterday - Official Trailer (2019)
キダ : なるほどね。
Seiji : そういう風に分かる人には分かる的なネタが仕込まれているというのも好きですね。裏側に隠されたユーモアというか。
キダ : それでいうと、Back To The Futureのバンドオーディションのシーンでマーティが『Power of Love』を演奏してる時に「うるさい」って拡声器で演奏を止める先生役が、その『Power Of Love』を歌ってるHuey Lewisなんですよ。
Seiji : え!そうなんですか!「Back To The Futureめっちゃ好き」とか言ってるくせに全然知らなかったです…!
キダ : Back To The Futureはそういうのも面白いし、伏線の回収とかも上手やしね。
Seiji : ドラマなんかはどうでしょう?気になるものはありますか?
キダ : Prime VideoにあるNicolas Winding Refn監督の『TOO OLD TOO DIE YOUNG』は一気に見ましたね。
TOO OLD TO DIE YOUNG - Official Trailer (2019)
キダ : この監督はけっこう好きで。映画の『Drive』も撮ってます。その『TOO OLD TOO DIE YOUNG』はトータルで13時間くらいあるドラマですね。
Drive - Movie Trailer (2011)
Seiji : ドラマはやっぱり全部見きるにはそれなりの根気と時間がいりますよね。
キダ : そうそう。かなり時間を取られるから、よっぽどじゃないとドラマは見ないかな。最後にテレビで観たドラマは「やまとなでしこ」(フジテレビ 2000年)ですかね(笑)
Seiji : (笑)
2, ライブ配信の駆け込み寺、ダイコク映像
—新しいおもちゃを手に入れた感覚でしたね。今ワクワクしてます—
Seiji :
後半は、このコロナウイルスの影響によってアメ村界隈でも本格的に始まった「ライブ配信」についてお聞きしたいと思います。もう既にかなりの数の配信プロジェクトにダイコク映像が関わっているイメージです。キダ : でも3月後半から仕事がなくなって4月はマジでニートでしたね。
Seiji :
緊急事態宣言下で、イベントも本当に0でしたもんね…。キダ : 腐ってました(笑) 曜日とか時間の感覚も本当になくなるくらい。
Seiji :
緊急事態宣言が解除された頃からは、徐々に復活してきましたか?キダ : 配信も始まるという事で5月に、映像を切り替える「スイッチャー」っていうのを買ったんです。今(インタビュー中)も使っているんですけど。新しいおもちゃを手に入れた感覚でしたね。今ワクワクしてます。それを5,6月で色々試しながら今に至ります。
Seiji :
5月にmaplecoimics Showroomで行なった「トゥワイライトレストラン」や、6月にClub JOULEで行なったPROPSといった配信型のイベントにはダイコク映像が映像班として参加されました。コロナをきっかけに配信型のストリートのイベントに挑戦することになったわけですが、ズバリやってみていかがでしたか?キダ : セッティングが一番大変でしたね。あと完全にライブ配信ということで現場にネット環境がないと話にならないので、ネットワークを確保する事もマストでしたね。そこが無理なら無理なので。
Seiji :
確かに!機材やコンテンツが充実していても、最終的にネット環境が悪ければ意味がないですもんね。ネット環境を良好な状態でキープできる場所って限られていますよね。例えば野外では難しかったり。キダ : まだまだ場所によっては厳しいですね。
Seiji :
キダさんは準備から配信本番まで、本当に休みなく動かれていたと思います。例えば6月の終わりに開催したPROPSは、いつもの豪華さを保ちつつも、オンライン上で有料の配信を行ったという点で、関西のストリートシーンにとって一つの到達点だったのではないかと思います。キダさんは本番中はもちろん映像には映ることはなかったですが、会場でどんな作業をされていたんですか?キダ : 「スイッチング」と言って、画面を切り替える作業をしていましたね。こんな感じで。
(インスタライブ上で画面を切り替える。ホストMC
→全体
→パンダ…とアングルが変わっていく)
Seiji :
ということはカメラを何箇所かに設置して、それをずっと見ながらベストのタイミングで切り替えていくわけですね。初のオンライン配信のPROPS、やってみてどうでしたか?キダ : 楽しかったですよ。ライブ配信といえど、コンテンツが満載でしたしね。DJは時間の関係で、一人当たりの回す時間が短くなってしまうんですけど、その分ライブやダンスも次々出てくる感じで、いつもよりも濃い回になったんじゃないかなと思います。
Seiji :
ダンスショーケースでHEX BEX+sucreamgoodmanが出たり、ライブでYellow Dragon Bandが出たりと、豪華でした。DJタイムも短いとはいえ、自宅で聴いたり観れたりできるのは楽しかったです。キダ : 4時間に特別版のPROPSが詰まっていたと思います。まあ放送が終わったあとは「いつもの」PROPSに戻ってましたけどね(笑)
Seiji :
逆にキダさんが自粛の期間で見た配信で印象に残っているものはありますか?キダ :
でんぱ組inc.の配信はびっくりしましたね。ZOOMでの配信だったんですけど、どんどんエフェクトを足していったりしてぶっ飛ばされるような感じに持っていってたのと、あらかじめ収録したものを流してたみたいなんですけど、音がめちゃめちゃ良かったですね。ライブ配信は音の良さがかなり重要だと思うので。
Seiji :
なるほど!ZOOMでの配信というのは、面白いですね。見ていくうちに徐々に展開に引き込まれるという感じだったんですね。キダ : それから、眉村ちあきっていうシンガーソングライターの
配信ライブは、完全にその場にいるかのような感覚に陥ったので、面白かったですね。
Seiji :
それはアーティスト本人の力によるものなのか、機材や仕掛けを駆使したテクニカルなものなのかどちらですか?キダ : 本人の力ですね。
Seiji :
ライブ配信でも、そうやって早速特色を出してる人は出してるんですね。これから「こういうこともやる」とか「やりたい」など、ありますか?キダ : コロナになる前は、クラブイベントの撮影を行なって後パブを製作したりしてたんですけど、そういうのって予算的に一番後回しになるんですよ。だから、今できることって言ったらライブ配信しかないですね(笑) あとは、美容師さんが映像を作るノウハウを知りたいっていうので声をかけてもらって講師として美容学校に行きます。
Seiji :
学校に授業をしにいくという感じですか?キダ : こういう時期なので、どういう形になるかはまだわからないですけどね。でもカリキュラムには入ってるみたいです。
Seiji :
どこで繋がるか分からないですね!というわけでお時間になりました。本日のゲストはダイコク映像よりイルミノルフスキー a.k.a キダさんでした!ありがとうございました!キダ : ありがとうございました。
[筆者あとがき]
映像や音楽に限らず、カルチャーについての情報を幅広くキャッチしながら
クリエイションに投影したり、あるいはしなかったりするダイコク映像の姿は、
筆者の目にスマートな大人像として映る。
過去の知識や手法に固執しない柔軟性こそが、この未曾有の事態において
次の一手を生み出すきっかけになり得るのだろう。
文/構成 :
Seiji Horiguchi